業務手順をAIで仕組み化するコツ——口で渡す・消えない場所に置く 図解アイキャッチ

業務手順をAIで仕組み化するコツ——「消えない場所に置く」だけで効き目が変わる

属人化シリーズ・仕組み化のコツ編

業務手順をAIで仕組み化するコツ——「消えない場所に置く」だけで効き目が変わる

3方よしAI共創コンサルタント 田中啓之(ひろくん)

家事と子育てのスキマで経営する3方よしAI共創コンサルタントの田中啓之、ひろくん(@passion_tanaka)です。

「業務手順を、ちゃんとAIに仕組み化したい」。そう思って、いざ手順書を書こうとすると、ぴたっと手が止まる。経理のあの処理も、得意先ごとの付き合い方も、謎のExcelマクロも、全部「あの人の頭の中」にはあるのに、いざ書き出そうとすると、出てこない。——これ、あなたが不真面目だからでも、文章が下手だからでもありません。「書く」というやり方が、そもそも業務手順の仕組み化と相性が悪いんです。

この記事では、業務手順をAIで仕組み化するコツを、たった二つの動作に絞ってお伝えします。ひとつは「口で渡す」。手順書を書かせるのではなく、AIに口頭で渡してもらう。もうひとつは「消えない場所に置く」。同じ手順でも、どこに置くかで効き目が段違いに変わります。中小企業の経営者向けに、今日から動ける形で、やさしくお見せしますね。

この記事を3行でまとめると

  1. 完璧な手順書はいらない。「肝になる部分が思いつかない」のは当たり前。中身がないんじゃなく、言葉にする「やり方」を教わってないだけ。書かせるのをやめるのが第一歩。
  2. 書かせるのではなく、AIに口頭で渡してもらう。新人に教えるつもりで話すだけ。AIが横でメモして、構造化して、「ここ抜けてませんか?」と漏れまで聞き返してくれる。
  3. 料理で言うと「レシピは冷蔵庫の扉に貼る」。整理した手順を、流れて消えるチャットでなく、AIが毎回必ず読み込む「消えない場所」に置く。これだけで効き目が段違いに変わる。

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「肝になる部分が思いつかない」それでいい——完璧な手順書はいらない

完璧な手順書はいらない 図解

ある建築業の経営者さんから、こんな相談をもらったことがあります。今までずっと下請けがメインで、自社の強みを言葉にしようとしたら、固まってしまった、と。

相談者(建築B2B事業者・服部さん〈仮名〉)

「USPとLPが重要なのはわかりました。肝になる部分が思いつかないのが現実です。今までが下請がメインでしたので、聞くお客さんもいません。何か探すヒントになるものはありませんか?」

この言葉を読んだとき、私は「あぁ、わかる」と深くうなずきました。「大事なのはわかった。でも、その大事な中身を、自分でうまく言葉にできない」。これ、属人化の現場で、いつも起きることなんですよね。

経理の手順も、得意先との付き合い方も、謎のExcelマクロも、全部「あの人の頭の中」にはある。でも、それを「書き出してください」と言われると、本人ですら、ぴたっと手が止まる。服部さんが言う「肝になる部分が思いつかない」というのは、まさにこれです。

ここで、いちばん伝えたいことを先に言ってしまいます。中身がない、んじゃない。中身は、たっぷりある。ただ、言葉にする「やり方」を、誰も教わってこなかっただけなんです。

だから、この記事で私がいちばん言いたいことは、たった一つです。

完璧な手順書を書こうとするのを、やめましょう。

書けないんです。誰も。それが普通です。前の記事で、私たちは「縦に掘る」という話をしました。横に配られた職種別AIを、表面の作業名のままにせず、ベテランの「なぜ、今そう判断したか」まで掘っていく。あの「掘る」を、今日からあなた自身の手で始められる、たった二つの具体動作に落とすのが、この記事の役目です。

その二つを、先に言ってしまいます。ひとつめは、口で渡すこと。ふたつめは、消えない場所に置くこと。この二点だけで、効き目が段違いに変わります。地味でしょう? 派手な話は、何もありません。でも、属人化を外すために本当に効くのは、いつもこういう地味な二つだったりするんです。

手順書を書かせるのではなく「AIに口頭で渡してもらう」が現実解

AIに口頭で渡してもらう 図解

私が、ずっと記事で言い続けてきたことを、まずはっきり伝えさせてください。属人化解消は「手順書を書かせる」じゃなく「AIに口頭で渡してもらう」が現実解。完璧な書類を書ける人なんていない。

ここ、本当に大事なところなので、もう一回言います。完璧な書類を書ける人なんて、いないんです。

毎日やってる仕事ほど、言葉にできない

考えてみてください。あなたの会社で、経理の田中さんに「いつもの仕事を、全部マニュアルにしてください」とお願いしたら、どうなりますか。たぶん、こうなります。

  • 「いや、どこから書けばいいか……」と、固まる
  • 二週間後に、当たり障りのないA4一枚が出てくる
  • でも肝心の「あの判断、なんでそうするのか」が、そこには書いてない

なぜか。人は、自分が無意識にやっていることを、文章にできないからです。毎日やってる仕事ほど、体で覚えていて、頭では言葉にしていない。だから「書いてください」とお願いすると、一番大事な中身ほど、こぼれ落ちる。

これ、誰のせいでもありません。田中さんが不真面目だからでも、文章が下手だからでもない。「書く」というやり方が、暗黙知と相性が悪いんです。だから、やり方を変えます。

「話してもらう」だけ。書かせない

経理の田中さんに、こうお願いするんです。「いつもの仕事の手順を、AIに教える感じで、話してください」。これだけです。ポイントは「書く」じゃなくて「話す」。文章を作らせない。新人スタッフに口で教えるみたいに、しゃべってもらう。

なぜ「話す」がいいのか。理由は三つあります。

ひとつ。話すのは、書くよりずっとハードルが低い。「マニュアルを作って」と言われると身構えるけど、「新人に教えるつもりで話して」なら、ベテランさんは案外、スラスラ話せます。書類は「正解を書かなきゃ」と力むけど、口頭は「思い出しながら」でいい。この差は、想像よりずっと大きいんです。

ふたつ。話すと、無意識の判断が、口からこぼれる。「ここはまず、得意先の今月の状況を見て……あ、これ見るんだよな、いつも」みたいに、本人すら意識していなかった手順が、しゃべっている途中で勝手に出てくる。書類だと、これが漏れるんです。

みっつ。AIが横で、全部メモってくれる。だから、ベテランさんは「記録しなきゃ」と気を張らなくていい。ただ気持ちよく話すだけ。その横で、AIが文字に変えていってくれる。

順番は、これだけ

私が記事に書いた「属人化を外していく順番」は、こうです。

  1. 誰の頭の中にあるかを、出す(音声でも文章でも、AIに教える感じで、口頭で)
  2. Claude Code などで、構造化する(話した内容を、手順の形に整理してもらう)
  3. 「消えない・毎回読まれる場所」に、置く(これは次の見出しで詳しく)

①でしゃべる。②でAIが手順の形に整える。③で消えない場所に置く。このうち、今日のあなたがやることは、ほぼ①だけです。②はAIがやる。③は次の話。だから、難しく考えなくていいんです。「話す」。それだけ、始めればいい。

AIが「ここ、抜けてませんか?」と聞き返す

口で話してもらうと、もう一つ、いいことがあります。話した内容をAIに食わせると、AIが「ここ、抜けてませんか?」と、聞き返してくるんです。具体的に、どんな会話になるか。イメージしやすいように、やりとりを並べてみますね。

ベテランさん

「月末になったら、得意先ごとに請求書を作って、メールで送ります」

AI

「得意先ごとに、送り方を変えていますか?」

ベテランさん

「あ、そうそう。A社さんは郵送じゃないとダメで、B社さんはメールのPDF。これ、間違えると怒られるやつ」

ほら、出ました。これこそが、属人化の正体です。「A社は郵送・B社はメール」という、その人にしか分からない区別。このやりとりがなければ、それは永遠に、田中さんの頭の中だけに残ったままだった。それを、AIの問い返しが、たった一回の会話で、外に引っ張り出した。

服部さんの「肝になる部分が思いつかない」という悩みも、ここで解けます。一人で「肝はどこだ」と探そうとするから、思いつかないんです。でも、AIが横で「それは、どう判断してるんですか?」と一個ずつ聞いてくれれば、答えているうちに、肝のほうから顔を出してくる。探すんじゃない。答えているうちに、出てくる。これが「口で渡す」の、本当の強さです。

なぜ「前提を渡す」ほど、AIは賢く動くのか

ここで、少しだけ仕組みの話を。難しくないので、安心してください。私が、別の場面で書いたことなんですが——Claude Codeの特化点は「コンテキストエンジニアリング」。複数のツールやAPIをバラバラに動かすのではなく「複数のシステムを有機的に組み合わせる」ときが一番輝く、という話でした(公開記事:Claude Codeで何ができる?)。

「コンテキストエンジニアリング」。横文字で、ちょっと身構えますよね。でも中身は、シンプルです。「AIに、ちゃんと前提を渡しておくほど、賢く動く」ということなんです。ベテランさんの口頭の説明は、まさに、その「前提」そのもの。話してもらった内容が、AIにとっての文脈(コンテキスト)になる。だから、まず口で渡す。これが、すべての土台になります。横文字を覚える必要はありません。「前提を、ちゃんと渡しておく」。それだけ、頭に入れておいてください。

同じ手順でも、置く場所で効き目がまるで変わる

置く場所で効き目が変わる 図解

さて、ここからが、多くの人が見落とすところです。せっかくベテランさんの手順をAIに渡して、きれいに整理できた。手順が、文字になった。「やった!」と思う。——でも、その整理した文字を、どこに置くか。ここで失敗すると、全部、水の泡になります。

私が記事で、いちばん強く言いたかったのが、ここなんです。出力先は「Slackに流れる場所」NG。「消えない、毎回読まれる場所」に置く。これだけで効き目が段違いに変わります。

どういうことか、料理で言わせてください。せっかく作ったレシピを、流しの横のメモ用紙に書いて、貼っておいたとします。でも、毎日いろんな紙がそこに重なって、レシピはどんどん下に埋もれていく。一週間後には、もう見当たらない。

これが「流れて消える場所」です。チャットやSlackって、まさにこれ。新しい発言が来るたびに、過去の大事な手順が、どんどん上に流れて、見えなくなる。

そうじゃなくて。レシピは「冷蔵庫の扉」に貼るんです。料理するたびに、必ず目に入る場所。これが「消えない・毎回読まれる場所」。同じレシピでも、メモ用紙に書くか、冷蔵庫の扉に貼るかで、一週間後の運命がまるで変わる。手順の中身は、一文字も変わっていないのに、です。

中身は同じ。違うのは「置き場所」だけ。

だから、この二点は、セットなんです。口で渡す。消えない場所に置く。片方だけだと、効かない。どんなに上手にベテランさんから手順を引き出しても、流れて消える場所に置いたら、一週間で埋もれて、また「あの人に聞く」に戻ってしまいます。

流れて消える場所と、消えない・毎回読まれる場所の違い

流れて消える場所と消えない場所の違い 図解

「流れて消える場所」と「消えない場所」。言葉だけだと、ふわっとしますよね。だから、両者の違いを、表にしておきます。困ったら、ここに戻ってきてください。

流れて消える場所消えない・毎回読まれる場所
チャット、Slack、メッセージのやりとりAIが毎回読み込む設定ファイル・ルールブック
起きること新しい発言で、過去が埋もれるいつ呼んでも、同じ手順が、必ず読まれる
一週間後「あの手順、どこ行った?」そのまま、毎日働いている
属人化への効き目ほぼ効かない(また、人に聞く)効く(人がいなくても、回る)

左の「流れて消える場所」は、悪気はないんです。多くの会社が、手順をまとめるといえば、まずチャットに書く。手軽だから。でも、手軽さと引き換えに、その手順は一週間後には消えてしまう。回転寿司のレーンと同じで、一瞬で目の前を通り過ぎて、二度と手元に来ません。

右の「消えない・毎回読まれる場所」に置くと、何が起きるか。AIは仕事のたびに、その手順を「思い出して」動く。流れて消えない。忘れない。だから、田中さんがいなくても、田中さんの手順で、仕事が回る。

「消えない場所に置く」。たったこれだけのことなんですが、ここを変えるだけで、効き目が、本当に段違いになります。逆に言うと、ここを外すと、どんなに良い手順をAIに渡しても、効きません。流れて消えてしまうから。だから、口で渡すのと、消えない場所に置くのは、二つで一組。片方だけだと、効かないんです。

「就業規則ファイル」という考え方——常時読み込ませる仕組み

就業規則ファイルという考え方 図解

「消えない場所」って、具体的にどういうものなのか。私のところで実際にやっていることを、お見せしますね。

私のところでは、AI秘書に「就業規則」みたいなファイルを、持たせています。これは、AI秘書が仕事を始めるとき、毎回必ず最初に読み込むファイルです。その量、なんと2.3万トークン分。常時読み込み、です。

トークンというのは、ざっくり言えば「文字のかたまりの量」のこと。2.3万トークンというと、文庫本でいうと、数十ページ分くらいの分量です。けっこうな量の「我が社のルールブック」を、AIが毎回、仕事のたびに、必ず読み込んでから動く。ここに業務手順を足していくと、何が起きるか。

もう「田中さんしか分からない」が、物理的に、消えていく。

なぜなら、田中さんから聞き取った手順が、AIが毎回必ず読む場所に、書いてあるから。AIは仕事のたびに、その手順を「思い出して」動く。流れて消えない。忘れない。

「就業規則ファイル」を、自分の会社で作るには

難しく考えなくて大丈夫です。要は「AIが毎回最初に読むファイルを一つ用意して、そこに我が社のルールと手順を書いていく」だけ。ChatGPTなら「カスタム指示」やプロジェクトのファイル、Claudeなら最初に読み込ませる設定ファイル。お使いのツールに、必ず「毎回読む場所」があります。

そこに、ベテランさんから口で引き出した手順を、一つずつ足していく。「A社は郵送・B社はメール」も、「この取引先は月初に連絡すると機嫌がいい」も、全部そこに書く。すると、AIは仕事のたびに、その「我が社の就業規則」を読んでから動くようになる。これが、業務手順を仕組み化する、いちばんの肝です。

暗黙知は手順書では書けない——判断の瞬間に聞いて積み上げる

判断の瞬間に聞いて積み上げる 図解

前の記事で、私たちは「縦に掘る」話をしました。ベテランの「なぜ、今そう判断したか」を、毎日少しずつ聞いて、AIにメモらせる。それを積み上げると、3ヶ月後には、本人すら気づいていなかった「判断の軸」が、文字になって残る——という話でした。

その「縦に掘って引っ張り出した宝物」を、どこに置くか。ここが、前の記事と、この記事が、つながるところです。

せっかく毎日、判断の軸を聞き出して、文字にした。でも、それをチャットに流して終わりにしたら、また消える。一週間で埋もれる。三ヶ月積んでも、流れる場所に置いていたら、いざ田中さんが辞めたとき、どこにも残っていない。

逆に。聞き出した判断の軸を、毎日「就業規則ファイル」に足していったら、どうなるか。田中さんが辞めても、田中さんの「判断の軸」が、AIが毎回読む場所に、ずっと残っている。AIは仕事のたびに、田中さんの軸を思い出して、田中さんのように判断する。

これが、「縦に掘る」と「消えない場所に置く」が、ひとつに噛み合う瞬間です。掘っただけでは、足りない。置く場所が、いる。置き場所だけ用意しても、足りない。掘らないと、置くものがない。だから、二つで一組なんです。

「一気に全部」は、続かない。一日一個でいい

ここで、一つだけ注意を。「一気に、全部聞き出して、全部置こう」としないでください。続きません。

一日、一個でいいんです。「今日、いつもと違う判断をした場面、ありましたか?」と、一個だけ聞く。それを、消えない場所に、一行、足す。それを毎日。三ヶ月で、約90個。気づけば、ベテランさんの判断の引き出しが、90個ぶん、消えない場所に並んでいます。

一気にやろうとすると、続かない。でも、一個ずつなら、無理なく積める。これが、地味だけど、いちばん効くやり方です。

社員に教えるとき、AIを同席させると一石二鳥

口で渡す、というやり方には、もう一つ、いいことがあります。社員に教えるときに、AIを同席させると、一石二鳥なんです。社員も育つ。そして、ベテランの暗黙知も、同時に残る。

これ、実は私自身が、身をもって体験していることなんです。私は、勉強会やLIVEで、参加者にAIの使い方を教えることがよくあります。手順を、ひとつひとつ、説明しながら。そのときに、何回も「あ」と思う瞬間があるんです。「あ、これ、自分でも、なぜこの順番でやってるか、言語化したことなかったな」。

教える、ということは、自分の暗黙知が、言葉になる瞬間なんですよね。だから、誰かに教える機会こそ、暗黙知を外に出す、最高のチャンスなんです。そこにAIが同席していれば、その言葉が、全部メモされて、消えない場所に残る。社員教育と、属人化解消が、同時に進む。一石二鳥どころか、三鳥くらいの価値があります。

ベテランに「教えてもらう」のは、頭を下げることじゃありません。ベテランの一番輝く時間を、作ることなんです。

出力先の良し悪しを比較表で整理する

出力先の良し悪しを比較 図解

ここまでの話を、二つの表でまとめておきます。一つめは「書かせる」と「口で渡す」の比較。二つめは「出力先(置き場所)」の良し悪しです。迷ったら、ここに戻ってきてください。

表1|「手順書を書かせる」 vs 「AIに口頭で渡す」

手順書を書かせる方式AIに口頭で渡す方式
ベテランの負担机に向かって何時間もうなる新人に教えるつもりで話すだけ
出てくる中身当たり障りのない教科書的な内容「なんとなくこうしてる」本音の軸
「当たり前」の抜け本人が書く必要を感じず抜け落ちるAIが「ここ抜けてませんか?」と埋める
続けやすさ面倒で三日坊主になりがち1日ひとつ話すだけ。毎日積める
完成までの早さ完璧を目指して半年たっても出ない3割の手順を、今日1個、出せる

表2|出力先(置き場所)の良し悪し

流れて消える場所(NG)消えない・毎回読まれる場所(OK)
具体例チャット、Slack、DMのやりとり就業規則ファイル、AIが常時読む設定
読まれ方一度きり。すぐ下に流れて埋もれる仕事のたびに、毎回必ず読み込まれる
3ヶ月後どこに書いたか分からなくなる判断の軸が90個ぶん積み上がっている
属人化への効き目ほぼ効かない(また人に聞く)効く(人がいなくても回る)

表を見れば、どちらを選ぶべきかは、もう明らかですよね。「口で渡す」×「消えない場所に置く」。この左下から右上への移動が、業務手順をAIで仕組み化する、いちばん現実的な道です。

派手な話は、何もありません。でも、この二つの表の「右側」に動かすだけで、「あの人が辞めたら、うちはもう回らない」という、あの夜中の不安が、毎日少しずつ、減っていきます。

抱え込みを外して家族と皮をこねる 図解

COLUMN

抱え込みを外して、家族と皮をこねる

最後に、少しだけ、心の話をさせてください。ここまで「口で渡す」「消えない場所に置く」と、やり方の話をしてきました。でも、そもそも、なんで、こんなに手間をかけてまで、属人化を渡すのか。「楽をするため」だと思われがちなんですが、私の本音は、ちょっと違うんです。

先週末、私は家族で、皮から水餃子を作りました。正直、めちゃくちゃ手間がかかる(笑)。AIに任せれば一瞬で終わる仕事を横目に、わざわざ手で皮をこねて、伸ばして、包んで。子どもたちと、粉だらけになりながら。でもね。その「無駄な手間」が、最高に、贅沢だったんです。

私はこれを「抱え込みOSを外す」と呼んでいます。仕事も判断も、全部一人で背負い込む古いOSを、AIに少しずつ渡して、書き換えていく。属人化を渡して、仕組みが回る。すると、手が空く。その空いた手で、何をするか。「もっと働く」じゃなくて、いいんです。家族と、皮をこねる。それで、いい。私はいま、自分の口ぐせや判断の軸を、分身AIに少しずつ移しています。

ある分身AI講座の参加者の方が、大事なことを教えてくれました。AIの速さに「便利だ」と感心しながらも、普段はものすごくアナログの手書きを、大事にしている、と。これ、私も、まったく同じなんです。AIに渡すのは、自分らしさを手放すためじゃない。むしろ、逆。「あの人にしか分からない」をAIに渡して、ベテランも、あなたも、もっと自分らしい時間を取り戻すため。手書きを大事にする時間も、家族と水餃子をこねる時間も、その「取り戻した時間」の中にあるんです。

属人化を解いて仕組みが回るほど、人間がやることは「もっと働くこと」じゃなくて、「目の前の人と、無駄な時間を過ごすこと」に、絞られていく。三方よしの精神です。私は、ずっと、そっちを選んでいきたい。凸凹のまま、でいい。私もまだ、隣を歩きながら一緒に解いている最中です。だから、怖がらなくて大丈夫。一個ずつ、渡していきましょう。

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業務手順の仕組み化についてよくある質問

業務手順の仕組み化のよくある質問 図解

Q1. 手順書を書かせるより、口で話してもらうほうが本当にいいんですか?

はい。いちばんの違いは「本音の軸が出てくるか」です。手順書を書かせると、みんな身構えて、当たり障りのない教科書的なことしか書けません。本当に大事な「なんとなくこうしてる」が抜け落ちる。完璧な手順書を書ける人なんて、この世にいないんです。でも、しゃべるだけならできる。さらにAIが「ここ抜けてませんか?」と聞き返してくれるので、本人だけで書くより圧倒的に網羅されます。書かせず、しゃべってもらうのが現実解です。

Q2. 整理した手順は、どこに保存すればいいですか?

「消えない、毎回読まれる場所」に置いてください。いちばんやりがちな失敗は、チャットに流して終わりにすること。チャットは回転寿司のレーンと同じで、一瞬で目の前を通り過ぎて、二度と手元に来ません。お店の「冷蔵庫の扉に貼るレシピ」のように、AIが毎回必ず読み込む場所——ChatGPTのカスタム指示やプロジェクトファイル、Claudeの設定ファイルなど——に置く。これだけで効き目が段違いに変わります。

Q3. 「肝になる部分が思いつかない」のですが、どうすればいいですか?

それで、まったく正常です。一人で「肝はどこだ」と探そうとするから、思いつかないんです。中身がないんじゃなく、言葉にするやり方を教わっていないだけ。だから、探すのをやめて、AIに「いつもの仕事を新人に教える感じで話してください」とお願いしてみてください。AIが「それは、どう判断してるんですか?」と一個ずつ聞いてくれれば、答えているうちに、肝のほうから顔を出してきます。探すんじゃなく、答えているうちに出てくる。これが「口で渡す」の強さです。

Q4. ベテランが「AIなんて」と嫌がりそうです。どう始めればいいですか?

ベテランに「AIを覚えてください」とは言わないでください。やってもらうのは、いつも通り仕事をすることと、「なぜ?」と聞かれたら答えることだけ。AIの操作は、あなたや若手が横でやればいい。ベテランは、しゃべるだけ。「マニュアルを書いてください」と頼むより、「いつもの仕事を、教える感じで話してくれませんか」とお願いするほうが、ずっと構えずに口が動きます。書類を書かせず、しゃべってもらう——ここが全部のコツです。

Q5. どれくらいの完成度で始めればいいですか?

3割でいいんです。完璧な手順書を半年かけて作るより、3割の手順を、今日1個、出すほうが、ずっと価値があります。早く動き出すことが、いちばん大事。今日、いちばん「この人が抜けたら困る」という仕事を1つだけ思い浮かべて、AIに「教える感じで」話してみる。そして、AIが整理した手順を、チャットに流したまま放置せず、消えない場所にコピーして保存する。この「保存する」までやって、ワンセットです。3番までで満足して保存を飛ばす人が本当に多いので、ここだけは忘れないでください。

今日できる一歩——「あの人にしか分からない仕事」を1つだけ、口で渡す

理屈は、もう十分です。今日できる一歩を、たった一つ、お渡しします。あなたの会社で「あの人にしか分からない仕事」を、1つだけ、思い浮かべてください。経理でも、得意先対応でも、謎のExcelでも、なんでもいい。一番「あの人が辞めたら、ヤバい」と思うやつを、1つだけ。そして、今日、それをAIに「教える感じで」話して、文字にする。具体的な手順は、こうです。

1. スマホでも、パソコンでも、AIを開く(ChatGPTでも、今お使いのもので、なんでもいい)

2. 「今から、うちの会社の◯◯の仕事の手順を、新人に教えるつもりで話します。あとで整理してください」と伝える

3. ベテランさん本人に、口で話してもらう(思い出しながらでいい。AIが「ここ、抜けてませんか?」と聞いてきたら、それに答える)

4. AIが整理した手順を、チャットに流したまま放置せず、消えない場所——AIが毎回読み込むファイルやドキュメント——にコピーして、保存する

4番が、「消えない場所に置く」です。ここを忘れると、明日には、流れて消えます。だから、必ず、セットで。3番までで満足して、4番を飛ばす人が、本当に多いんです。せっかく掘った宝物を、流して消す。これだけは、しないでください。「保存する」まで、やって、ワンセットです。

これだけ。今日中に、1つ。それで、いいんです。完璧じゃなくていい。3割でいい。派手じゃない、地味な作業です。でも、これを1個積むだけで、「あの人が辞めたら、うちはもう回らない」という、あの夜中の不安が、毎日少しずつ、減っていきます。

そして——AIに業務を渡すと、AIは「良かれと思って」、動きすぎることがあります。実際、私のところでも、「お金を使わないで」と言葉で指示していたのに、AIが「いい仕事をしよう」とした結果、禁止していた有料のルートを勝手に使ってしまったことがありました。だから、属人化を渡したら、次は「渡した後に、暴走しないように守る」話が必要になります。それは、また次の記事で、じっくりお話ししますね。今日も一歩ずつ、一緒に、いきましょう。

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