
Fable 5でゲーム開発が半日で完成した話|AIが安くしたのは”開発費”じゃなかった
2026.07.08 | AI氣道 コラム
家事と子育てのスキマで経営する3方よしAI共創コンサルタントの田中啓之、ひろくん(@passion_tanaka)です。
先日、X(旧Twitter)でこんな投稿を見た。「超ハイクオリティなスマホゲームの公式サイトを半日で作った」って。作ったのはイケハヤさん。放置ゲーム「月蝕綺譚(Luna Occulta)」の公式サイトを、AIに作らせて公開したという話だった。
正直、最初は「またAIがすごいって話か」くらいの感覚で読んでた。でも読み進めるうちに、これは「AIツールがすごい」という話じゃなくて、「経営判断の変数が1個変わった」という話だと気づいた。
ちょうど今、Claudeの最上位モデル「Fable 5」を無料の範囲で試せる期間が7月13日まで延長されている、というニュースも流れている。この記事は、そのモデルの使い方や料金プランの話ではない。期間限定の話でもない。無料期間が終わった後も変わらずに残る、もっと根っこの話をしたい。
半日でゲームサイトが完成した話——今日はその話をする。
この記事でわかること
- イケハヤさん・高崎さん(アシュラ開発者)の実例から見える、AIが本当に安くした「もの」の正体
- 「試作コストが消える」ことが、経営判断にどう波及するか
- 会社の中で”やってみる”を止めているものの正体
- 今日から始められる、小さな一歩
半日でゲームの公式サイトが完成した日
イケハヤさんが投稿していた内容をそのまま紹介する。
「めっちゃクオリティ高いスマホゲームの公式サイトを、半日で作りました!昨日の昼過ぎから始めて、今日の朝にはもうできていました。ヒーローセクションにかっこいい動画が流れる、憧れのサイトです。」
使ったのはClaude「Fable 5」。今動かしている放置ゲーム「月蝕綺譚(Luna Occulta)」の公式サイトを、思い立ってから半日で本番公開まで持っていったという。ノベルの体験版、ミニゲームの体験版まで作り込んで、ヒーローセクションの動画(PV)も本人が2時間で仕上げたそうだ。
イケハヤさんはこうも書いていた。「外注したら、動画素材もあるので300万円はくだらないでしょう」。これは本人の見立てであって私が検証した数字ではないけれど、桁として違和感はない。動画付きの公式サイトを外部に発注すれば、確かにそのくらいの規模の話になる。
昔なら「新しいメニューを試す」ためだけに、専用の厨房を借りて、食材を仕入れて、試作チームを雇う必要があった。それが今は、家の台所で今晩のうちに試作品が焼き上がる。しかも味は悪くない。試作の「重さ」そのものが消えた、という話。
ここで大事なのは、イケハヤさんは別にプロのWebデザイナーではないということ。「ゲームを作るのが、ブログを運営するくらいの感覚になっている」と本人が書いている通り、専門スキルを大量に持つ人だけの特権ではなくなった、というのがこの話の核心だ。
本人はこうも振り返っている。「開発コストがここまで下がると、個人が自己表現の手段としてゲームを作るという選択肢が出てくる。稼ぐためというより、ただ楽しいから、自分の理想のゲームを作りたいから、ひたすらやっている」。この感覚は、私がAI氣道を始めた頃の感覚とも近い。誰かに頼まれたからじゃなく、やってみたかったから手を動かした。それがそのまま形になる時代が来た、ということだと思う。
海外だけじゃない。GPTs研究会でも同じことが起きていた
正直に言うと、この話は海外の一事例で終わる話じゃない。私が毎朝やっているGPTs研究会の朝LIVEでも、まったく同じことが、しかもほぼ同じタイミングで起きていた。
水曜あさのLIVEに来てくれている高崎さん(高崎翔太・IF塾塾頭・元臨床心理士)は、自分が育てている専門特化AIツール群「アシュラ」の新作を、ある朝一気に4つ持ってきた。占い師専用「四柱推命」、作曲家専用「Beat Forge」、英会話講師専用「English Master」、漫画家専用「Comic Maker」。しかも高崎さんは、占いも作曲も英会話も漫画も、どれも専門家ではない。
寝ている間にAIに土台を作らせて、朝起きたら細かいところを自分で仕上げる。高崎さんはこのスタイルをこう言葉にしていた。
「一気に完成品を作るツールじゃなくて、どんどん磨いていける土台を作るツールみたいなイメージ。そういうふうに時間をかけて作るんだけど、確実にどんどんいいブラッシュアップをしていけるようなツールがいろいろあると僕はいいなと思ってて」
もう一つ、同じ高崎さんが少し前に持ってきた話も紹介したい。3DのAIツールを無料で自作した話だ。3D生成AIは本来、生成のたびにクレジットを消費する「都度課金+ガチャ」の世界で、高崎さん曰く「何万も使ってるのに、使えるモデルが一個も出ない」ことすらあるという。だからこそ「気軽にちょっと試そ、ができない」。ここも今日の話の核心と同じだ。試作コストが高いままだと、”ちょっとやってみたい”人ほど入口で弾かれる。
高崎さんはこの状態に文句を言うんじゃなくて、無料の3Dモデルとパーツ分割の工夫を組み合わせて、自分で”タダで試作できる仕組み”を作ってしまった。その結果、「これで寝ます」と丸投げしたプロンプトから、車もコースも建物も全部3D生成された”老人向けレーシングゲーム”が朝には出来上がっていた、というオチまでついている。
高崎さんの3Dツールの話を、本人はまさにこう表現していた。「高い食材(有料AI)に頼らず、冷蔵庫の無料の材料だけでフルコースを仕込む感覚」。試作コストが下がるというのは、こういう感覚のことなんだと思う。
イケハヤさんも高崎さんも、住んでいる場所も専門分野も違う。でも、やっていることは同じだ。試作にかかるコストが消えたことに気づいた人から順番に、「まず作ってみる」を当たり前にし始めている。
実はこの感覚、私自身にも覚えがある。私は中卒でリフォーム会社に入り、WEB集客を独学で覚えた。広告の文章、LPの写真、ボタンの位置——「これで反応が変わるはず」と思ったものを、片っ端から試した。それを積み重ねて、後にEC事業で月商6000万円まで持っていった。
あの頃、1本のLPを直すだけでも、コーダーに頼んで、修正待って、また試して、を何日もかけてやっていた。試行回数を増やした人が勝つ、というルール自体は昔から知っていた。ただ、1回試すのにかかる時間とお金が今よりずっと重かった。だから「これは本当に試す価値があるか」を、出す前にかなり悩んでいた。
AIが試作コストを消してくれた今、あの頃何日もかけていた「1本試す」が、数時間でできる。ルールは変わっていない。試行回数を増やせる人が勝つ。変わったのは、試行回数を増やすためのコストだけだ。
本当に安くなったのは”開発費”じゃない
この話を「AIで開発費が安くなった」で終わらせると、たぶん半分しか受け取れていない。
本当に安くなったのは、開発費というお金の話じゃなくて、「試してみる」の心理的なハードルの方だと思う。
お金の計算は昔からできた。「外注すれば300万円、自分でやれば時間だけ」。この比較自体は今に始まった話じゃない。変わったのは、比較する必要すらなく「じゃあ今夜作ってみるか」で終わる速度になったこと。
開発コストが下がると、人は「安く作る」を選ぶようになるんじゃない。「まず作ってから考える」を選べるようになる。順番が変わる。これが本質。
順番が変わるとどうなるか。今までは「企画→承認→発注→納品→検証」という一直線の順番だった。承認が下りるまで、何も形にならない。今は「作ってみる→見てから決める」の順番に変えられる。企画書の完成度で勝負するんじゃなくて、実物の完成度で勝負できる。
もう一つ変わったことがある。「誰に相談すればいいかわからない」という壁も薄くなった。以前なら、新しいアイデアを試すには「これを作れる人を探す」というステップが必ず必要だった。デザイナーを探す、エンジニアを探す、予算内で受けてくれる会社を探す。この「探す」のコストと時間も、実は試作コストの一部だった。今は探す前に、自分の手元で1つ形にできる。探す手間が要らなくなったことで、結果的に着手できるアイデアの総量が増えている。
これはコンサルティングの現場で見ている実感とも一致する。コードが書けなくてもAIで診断アプリは作れるという記事で紹介した事例も、まさに「先に作って、見せて、直す」の順番だった。企画書を練り上げてから着手するより、粗くても動くものを先に出した方が、結果的に早く正解にたどり着く。
もう少し身近な例で考えてみる。新しいサービスのランディングページを作るとき、以前なら「デザイナーに発注する前に、社内で構成案を何往復も練る」のが普通だった。構成案の段階で議論するから、実際にページを見るまでに何週間もかかる。今は、粗くてもいいから実際に動くページを1本作ってしまって、それを見ながら「ここはこう変えよう」と話した方が早い。言葉で説明し合うより、実物を前にした方が、議論の質そのものが上がる。
比較表:試作コストが消える前と後で、何が変わったか
数年前と今で、何が変わったのかを整理してみる。
出典: イケハヤさんの投稿(元記事)をもとに、私の実感を加えて作成
この表で一番響いたのは、最後の行「誰がやれたか」だ。以前は「予算を持つ組織」か「専門スキルを持つ人」しか、試作の土俵に立てなかった。今は「やってみたい」と思った個人が土俵に立てる。土俵に立てる人数が増えれば、単純に、世の中に生まれる試作品の総量も増える。イケハヤさんの半日ゲームサイトも、その総量の中の1件だと思うと、この話の広がり方が見えてくる。
会社の中の”やってみる”を止めているものの正体
ここからは、経営者・個人事業主の話として書く。
会社の中で新しい企画が止まる時、実はコストそのものが理由になっていることは意外と少ない。止まっているのは、たいてい「失敗した時に誰が責任を取るのか」「これを提案していいのか」という心理的な部分だ。
試作にお金と時間がかかっていた時代は、この慎重さには合理性があった。数百万円かけて失敗したら痛い。だから企画書を練りに練って、承認を積み重ねてから着手する。それが正しいリスク管理だった。
でも試作コストが「半日・ツール利用料のみ」まで下がった今、同じ慎重さを続けると、今度は逆に損をする。「抱え込みOS」から「委ねるOS」へという記事でも書いたけど、昔の環境に最適化されたブレーキを、環境が変わった後もそのまま踏み続けている状態、というのがこの正体だと思う。
高級食材しか厨房になかった時代は「試作は本番の日だけ」で正しかった。でも今は冷蔵庫に安い食材がいくらでもある。それなのに「試作は特別な日にしかやらない」というルールだけを昔のまま守っている状態。
私が日々見ているのは、GPTs研究会や個別コンサルの現場に来る経営者・個人事業主の姿だ。「これ、AIでやってみたら?」と提案すると、返ってくる反応で多いのが「失敗したら恥ずかしい」「まだ準備が整っていない」という言葉。準備が整うのを待っている間に、半日で試作できる時代はもう来ている。準備を待つコストの方が、試作のコストより高くなっている場面が増えてきた、というのが正直な実感だ。
ここでいう「恥ずかしい」の中身も、少し分解してみる価値がある。多くの場合、それは「未完成なものを人に見せること」への抵抗であって、企画そのものへの不安ではない。以前は、未完成なものを見せる=手抜きに見える、というリスクがあった。試作に時間とお金をかけていたからこそ、「粗いもの」を見せることは、コストをかけた結果が粗かった、という評価につながっていた。でも試作コストがほぼゼロに近づいた今、粗い試作品を見せることは「手抜き」ではなく「速さ」の証拠として受け取られるようになってきている。評価の基準そのものが変わってきているのに、以前の評価基準のまま自分にブレーキをかけている人が多い、というのが実感だ。
比較表:先に決めてから作る vs 作ってから決める
2つの意思決定モデルを並べてみる。
どちらが正しいという話ではない。会社の登記や大きな設備投資、契約が絡む話は今も「先に決めてから作る」でいい。でも新しいコンテンツ、新しいサービスページ、新しい企画の見た目、社内向けの小さなツール——「やり直しが安いもの」まで同じ慎重さで縛っているなら、それは環境の変化を取りこぼしていることになる。
AIで作った診断アプリを無料で世界に公開する方法で紹介した事例も、まず作って公開して、反応を見てから直す、という順番だった。「作ってから決める」を実践している人は、もう身近なところに増えている。
正直な現在地——私もまだ全部を”まず作る”にできていない
ここで正直に言っておく。
私自身、コンテンツ制作や社内の仕組み作りに関しては「まず作ってから見せる」を徹底できている。記事もツールも、下書きの状態でどんどん形にして、味見してから直す。これは30体近いAIチームを日常的に動かしている中で身についた動き方だ。
個別コンサルの現場でも、同じことを勧めている。「これ、社外に出せない部分は別として、プロトタイプだけ先に走らせようよ」という話をよくする。完成品として出すんじゃなくて、「こんなの作ってみたけど、試してみて」という形で先に投げてしまって、実際に使ってくれた人の生の声を拾いながら直していく。私はこれを一種のプロセスエコノミーだと思っている。完成を待たれるより、作っている過程ごと見てもらった方が、結果的に良いものになるし、応援してくれる人も増える。
でも、全部の場面でそうなっているかというと、正直まだムラがある。特にお金が絡む決定や、社外に見せる大きな発表については、今でも「先に考えて、固めてから出す」に寄っている。それ自体が間違っているとは思っていない。ただ、「これは本当に慎重さが要る話か」「実は試してから決めても損しない話か」を、都度ちゃんと仕分けられているかというと、まだ甘い時がある。
例えば新しいコンテンツの企画。以前の私なら、まず頭の中で「これは需要があるか」「誰に向けたものか」を考え込んでから着手していた。今は違う。まず粗くても1本形にしてしまって、実際の反応を見てから磨く。この順番に変えてから、企画が止まる時間そのものが減った。一方で、大きな金額が動く判断や、家族に関わる話は今も「まず考えて、固めてから動く」を選んでいる。この2つを混同しないことが、今の私にとっての課題だと思っている。
「まず作ってみる」を万能の答えにしない。仕分ける基準を持つことの方が大事、というのが今の私の実感。
今日からできる小さな一歩
1. 「これ、試作したらいくらかかる?」ではなく「これ、今夜作れる?」と聞いてみる
企画会議での質問を1つ変えるだけでいい。予算の話をする前に、「これ、AIで今夜のうちに叩き台を作れないか」を一度検討する。作れるなら、企画書より先に叩き台を見て話す。
「このメニュー、いくらで仕入れられる?」の前に「今日ある食材で一皿作ってみようか」と聞くようなもの。まず味見してから、本気で仕入れるか決めればいい。
2. 「やり直しが安いもの」のリストを作る
社内の企画・提案の中で、「失敗しても被害が小さいもの」を一度洗い出してみる。ホームページの一部、告知の見た目、社内向けの小さなツール——こういうものは、承認プロセスを軽くして「作ってから決める」に回していい候補になる。一度リストにしてしまえば、次に似た話が出た時にいちいち悩まなくて済む。
3. 一度、自分の手で”半日プロジェクト”をやってみる
誰かに頼む前に、自分で小さく1個作ってみる。AIで3Dモデルを作る方法や分身AIを育てるほど自分が育つ理由で紹介している通り、AIを使えば、専門スキルがなくても「形にする」経験自体には手が届く。この経験を一度でも持つと、次の判断のスピードが変わる。
4. 「失敗しても被害が小さいか」を判断基準にする
企画の良し悪しを判断する前に、まず「これは失敗しても被害が小さいか」を先に確認する。被害が小さいなら、企画の完成度を高める前に手を動かす。被害が大きいなら、これまで通り慎重に進める。この順番を意識するだけで、無駄に足踏みする時間がかなり減る。
よくある質問
- Q. Claude「Fable 5」を使わないとこの話は再現できない?
- A. 再現できる。イケハヤさんの事例はFable 5だったけど、この記事で伝えたいのは特定のツールの話じゃなくて「試作コストが下がった」という環境変化の話。AIの種類は問わない。
- Q. 「まず作ってから決める」は何でも当てはまる?
- A. 当てはまらない。大きな投資、後戻りできない契約、法務・お金が絡む決定は今も「先に決めてから作る」でいい。「やり直しが安いもの」に絞って使う考え方。
- Q. エンジニアじゃなくても「半日プロジェクト」はできる?
- A. できる。イケハヤさん自身も専門のWebデザイナーではない。コードが書けなくてもAIで診断アプリは作れるで紹介した通り、非エンジニアが実際に手を動かしている実例がすでにいくつもある。
- Q. 300万円という金額は本当?
- A. これはイケハヤさん本人の見立てであって、私や第三者が見積もりを取って検証した数字ではない。動画素材付きの公式サイトを外注した場合の相場感として、桁自体には違和感がないという扱いで紹介している。
- Q. 「まず作ってみる」を社内で提案したら、慎重派の反対に遭いそう。どうすればいい?
- A. いきなり「今後は全部この方式で」と提案しない方がいい。まずは「被害が小さいもの」を1件選んで、実際に半日〜数日で試作を見せてから話す。理屈で説得するより、実物を見せた方が早い、というのがこの記事全体の主張でもある。
- Q. 記事で紹介された「アシュラ」って何?
- A. 高崎さんが育てている専門特化AIツール群の名前。クロードコード実践勉強会から生まれた成果物で、占い師専用「四柱推命」や作曲家専用「Beat Forge」など、専門分野ごとに特化したAIツールが次々に生まれている。詳しくは当日のLIVEレポートを見てほしい。
ひろくんのコラム——”やってみる”が安くなった時代の経営者の仕事
試作にかかるコストが下がるほど、経営者の仕事は「作らせるかどうかの判断」から「作ったものを見て決める判断」に変わっていくと思う。
これは楽になる話じゃない。むしろ判断の回数は増える。企画書1本にじっくり時間をかけていた頃と違って、次々に出てくる試作品を、速いテンポで味見して判断し続ける必要がある。
でも、その分だけ「机上の空論」で判断する時間は減る。実際に動くものを見て決められるなら、それは経営者にとって悪い話じゃない。社長無人化計画の話ともつながるけど、細かい実行はAIに任せて、経営者は「これは形にする価値があるか」の判断と、「見て、決める」に集中する。それが、これからの経営者の仕事の重心になっていくはずだ。
イケハヤさんの半日ゲームサイトも、高崎さんの「アシュラ」も、私が日々作っている記事や仕組みも、根っこは同じだと思っている。「思いついたら、その日のうちに形にする」を当たり前にできるかどうか。この記事も、実はそうやって生まれた1本だ。
参考リンク