
COLUMN ・ AI経営術
川崎重工とNTTデータのGENIAC受賞に学ぶ
社長の頭の中をAIで引き継ぐ方法
2026年7月10日
家事と子育てのスキマで経営する3方よしAI共創コンサルタントの田中啓之、ひろくん(@passion_tanaka)です。
先日、経済産業省のGENIAC-PRIZEで「ユーザー変革賞」を受賞した事例を見つけました。NTTデータと川崎重工業が、生成AIを使って熟練者の暗黙知を若手社員に引き継ぐ仕組みを作った、という取り組みです。
「大企業の話でしょう」と思われるかもしれません。ですが、この事例の本質は、むしろ社長がひとりで現場の判断まで担っている中小企業にこそ当てはまると私は考えています。今日は、その理由と、今日から始められる具体的な一歩をお伝えします。
3行でわかるポイント
- 2段構えの仕組み:川崎重工業は「インタビューAI」と「チューターAI」で熟練者の頭の中を若手へ渡しました
- 評価軸は技術力ではない:レビュー作業の削減や若手の生産性向上といった現場の変化が受賞理由でした
- 中小企業の第一歩:社長自身が「熟練者」であるケースが多く、判断基準の言語化が出発点になります
川崎重工とNTTデータのGENIAC受賞に学ぶ、2つのAIの仕組み
NTTデータと川崎重工業が構築したのは、2種類のAIエージェントを組み合わせた仕組みです。
ひとつは「インタビューAI」。熟練者に段階的に質問を投げかけ、経験や勘といった、本人も言葉にしづらい知識を少しずつ引き出していきます。もうひとつは「チューターAI」。引き出した知識を、今度は若手社員が学べる教材の形に整えます。
いきなり「技術をすべて書き出してください」と言われても、ベテランの方ほど困ってしまうものです。長年の経験は、本人にとって当たり前すぎて、言葉にする糸口すら見つからないことが少なくありません。だからこそ、AIが適切な粒度の質問を重ねながら、少しずつ形にしていくという設計自体に意味があると私は感じています。
評価されたのは「技術」ではなく「現場の変化」でした
私がこの事例で注目したのは、受賞理由の中身です。GENIAC-PRIZEの「ユーザー変革賞」は、高度なAI技術そのものに贈られたわけではありません。
評価されたのは、若手を教えるためのレビュー作業が減ったこと、若手社員の生産性が上がったこと、そして熟練者の負担が軽くなったこと。つまり、現場の働き方が実際に変わったという結果です。
派手な数字を掲げるAI活用より、現場の負担がひとつ減ったという地味な変化のほうに、私は信頼を感じます。どれほど高いツールを導入しても、現場が何も変わらなければ意味がありません。
中小企業にこそ刺さる理由——社長自身が「熟練者」だから
大企業が暗黙知の伝承に取り組む背景には、熟練者が退職すると技術が途絶えてしまうという危機感があります。しかし、中小企業やひとり社長の会社では、事情がもっと切実です。なぜなら、その「熟練者」が社長本人であることが多いからです。
社長が体調を崩せば、現場が止まってしまいます。休みを取れば、判断も止まってしまいます。こうした「自分がやらなければ全部止まる」という状態を、私は”抱え込みOS”と呼んでいます。
抱え込みすぎると、人も会社も無理を重ねてしまいます。私自身、すべてを一人で背負い込んで体調を崩した経験があります。少しずつ委ねる形に書き換えていくことが、経営を続けるうえで欠かせないと感じています。
今日からできる、暗黙知を言葉にする3つの問い
料理に例えると、暗黙知を引き出す作業は、レシピを持たないベテラン料理人に「目分量」の中身を聞き出す作業に似ています。「塩ひとつまみ」の”ひとつまみ”が実は何グラムなのか、本人も意識したことがない場合がほとんどです。だからこそ、具体的な問いを立てることが重要になります。
まず、いつも流れで済ませている定型業務を1つ選びます。次に、次の3つを自分に問いかけてみてください。「この判断をするとき、最初に何を見ているか」「なぜ、その基準を選んでいるのか」「言葉にできないなら、どんな例で説明できるか」。答えをメモに3行だけ書き出すだけで、暗黙知の見える化は始まります。
ここで大事なのは、書き出した内容を無理に増やそうとしないことです。ベテラン社員が知識を教えることに抵抗を感じる場合は、無理に引き出す必要はありません。まずは社長ご自身の頭の中から始めれば十分です。
よくある質問
Q. 大企業のような仕組みを作らないといけませんか?
A. 必要ありません。まずはメモ帳と普段お使いのAIチャットで十分です。判断の基準を書き出して読ませるだけでも、立派な第一歩になります。
Q. 自分の暗黙知は、どうやって見つければいいですか?
A. 考えなくてもできてしまう、いつもの定型業務に注目してください。無意識にできる作業ほど、暗黙知が詰まっています。
Q. 何から着手すればよいですか?
A. まずは1つの業務に絞り、判断基準を3行だけ書き出すことから始めてください。範囲を広げるのは、そのあとで構いません。
まとめ——頭の中の”当たり前”を渡せる形にする
川崎重工業とNTTデータの取り組みは、立派な仕組みですが、本質はとてもシンプルです。頭の中にある”当たり前”を、外に出して、人に渡せる形にする。これだけです。
この考え方は大企業に限った話ではありません。むしろ、社長自身が熟練者である中小企業や個人事業主にこそ、必要な視点だと私は考えています。高価なツールを急いで導入する必要はありません。まずは、ご自身の判断基準を言葉にすることから始めてください。
今日できる1アクション
毎週繰り返している定型業務を1つ選び、「私はこれを、どんな基準で判断しているか」をメモに3行だけ書き出してみてください。それだけで、暗黙知の見える化は、もう始まっています。
COLUMN
社長の頭の中は「レシピに書いてない味付け」
「これ、うちみたいな小さな会社には関係ない話だな」。NTTデータと川崎重工業が生成AIで熟練者の暗黙知を若手に伝承し、経産省のGENIAC-PRIZEでユーザー変革賞を受賞した——そんなニュースを最初に見たとき、私もそう思いかけました。でも読み進めるうちに、逆だと気づいたんです。これは大企業より、むしろ社長自身が熟練者である中小企業や一人社長にこそ、切実に必要な話でした。規模もツールも私とは桁違いだけれど、芯にあるものは、私がずっと別の言葉で発信してきたことと、まったく同じだったんです。
熟練者の頭の中って、料理で言うと「レシピに書いてない味付け」なんですよね。長年の勘で塩をひとつまみ、火加減をふっと落とす。本人には当たり前すぎて言葉にできないけれど、そこにこそお店の味が宿っています。川崎重工がやったのは、AIが上手に質問を重ねて、その「言葉にならない一手間」を少しずつ引き出し、若手が学べる形に翻訳したこと。派手な技術ではなく、現場の負担が減ったことが評価された点に、私は静かな信頼を感じました。
大企業がこれに取り組むのは、熟練者が引退すると技術が途絶えるからです。でも一人社長は、もっと切実です。だって、その熟練者が社長本人だから。社長が倒れたら止まる。休んだら回らない。私はこの「自分が頑張らないと全部止まる」という思い込みを、抱え込みOSと呼んでいます。倒したい相手は、いつだってこの抱え込みOSなんです。そして厄介なのは、その熟練の勘が社長の頭の中だけにあって、紙にも人にもまだ渡っていないこと。だからこそ、見える化はまず社長本人から始める必要があるんですよね。
私自身、ずっとこのOSで動いてきました。全部自分でやらないと気が済まない。任せるのが怖い。その結果、身体を壊しました。でも、頭の中の判断基準を少しずつ言葉にしてAIに渡していったら、ふしぎと「自分が何を大事にしていたのか」が、自分でも見えてきたんです。失敗やクセごと仕組みに変えていく過程は、分身AIが7つのミスを仕組みに変えた記録にも残しました。見える化は、抱え込みOSを委ねるOSに書き換える第一歩です。
ここで一つだけ、順番を間違えないでほしいんです。焦って高いツールから入れると、かえって時間が溶けていきます。私もAI自動化するほど時間が消える逆説を90日監査で検証して、その落とし穴を細かく確かめました。入口はツールではなく、社長の頭の中を一回、外に出してみること。まずは毎週の定型業務を一つ選んで、「私はこれを、毎回どう判断しているか」を三行だけ書き出す。地味ですが、そこから全部が始まります。頭の中の宝物は、書き出した瞬間に、はじめて誰かに渡せる形に変わるんです。
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