社内の知識をAIに読ませる時代へ
GoogleのOKFと、私がずっとやってきたこと
この記事の要点(30秒)
- 便利なツールに溜めた社内の知識は、属人化・ツール乗り換え・AIに読ませられない、の3つで2年ほどで”死ぬ”。
- Googleが発表した「OKF(Open Knowledge Format)」は、知識をただのMarkdownテキストで持つ標準。ベンダーに縛られず、AIが読み書きできる。
- 私はこの考え方を自分の母艦システムでずっと実践してきました。経営者が今日からできる第一歩まで、正直にお伝えします。
質問です。あなたの会社の「大事な知識」は、今どこにありますか?
たぶん、こんな感じじゃないでしょうか。商品の説明はNotionに。お客様対応のテンプレはGoogleスプレッドシートに。社長の頭の中にしかない判断基準は……どこにもない。そして数年に一度、「やっぱり別のツールに乗り換えよう」となったとき、過去に溜めた知識の半分は引っ越しの途中で消えていく。
私はこれを「冷蔵庫の引っ越し問題」と呼んでいます。新しい冷蔵庫を買うたびに、奥にしまった食材が傷んで捨てることになる。せっかく仕込んだ”だし”が、引っ越しのたびに毎回ゼロからやり直し。もったいないですよね。
2026年6月、Googleがこの問題に対して、ひとつの答えを出しました。「Open Knowledge Format(OKF)」という新しい仕組みです。
そして正直に言うと——私はこのニュースを見て、最初に思ったのは「すごい新技術だ」ではありませんでした。「あれ、これ、私がずっと自分のシステムでやってるやつだ」でした。この記事では、OKFが経営者にとって何を意味するのか、できるだけ専門用語を避けてお伝えします。

なぜNotionの社内wikiは2年で死ぬのか
OKFの話に入る前に、まず「課題」を整理させてください。ここが分からないと、OKFのありがたみが伝わらないんですよね。多くの会社が、社内の知識を便利なツールに溜めています。最初は快適です。でも、だいたい2年くらいで、これが”死に始める”。理由は3つあります。
1つ目:属人化する。そのツールを設計した人が辞めると、どこに何があるか分からなくなる。新しく入った人は「で、結局どのページが最新なの?」と迷子になります。たとえるなら、レシピノートはあるのに、字が達筆すぎて本人しか読めない状態です。
2つ目:そのツール専用の形に縛られる(ベンダーロックイン)。Notionに溜めた知識は、Notionの形でしか取り出せません。別のツールに移そうとすると、レイアウトは崩れ、リンクは切れ、表は壊れる。預けた先のお店が潰れたら、預けた荷物ごと消えるんです。
3つ目:AIに読ませられない。これが2026年において一番痛い。今、AIエージェントに「うちの社内ルールを踏まえて返信を書いて」とお願いしたい時代です。でも知識がツールの中に閉じ込められていると、AIがそれを読めない。せっかくの”だし”を、シェフ(AI)に渡せないんです。
誰も更新しなくなり、誰も見なくなり、最後は「あれ、まだあのページ生きてたっけ?」と言われて終わる。社内wikiは、静かに死んでいきます。

Googleが出した「OKF」とは何か——30秒で分かる定義
では本題です。難しい言葉は使いません。
OKF(Open Knowledge Format)とは、「知識を、ただのMarkdownファイルの集まりとして保存するための、Googleが公開した共通フォーマット」です。
これだけです。特別なアプリも、有料のサービスも要りません。あなたのパソコンのフォルダに、テキストファイル(Markdownファイル)を並べておく。それだけで「AIも人間も読める知識ベース」になる——というのがOKFの考え方です。
Googleの公式ブログと、GitHubで公開されている技術仕様書(SPEC.md)を実際に読んでみました。要点は3つです。
① 中身はMarkdown+ちょっとのメモ書きだけ。ファイルの先頭に「これは何の情報か」を1行書く。必須なのは基本これだけ。
② 特別な道具が要らない。専用ソフトもSDKも不要。メモ帳で開けて、メモ帳で編集できる。だから5年後も、どんなツールでも読める。
③ AIエージェントが「読む役」と「書く役」の両方をこなせる前提で設計されている。
ここで面白いのが、Marie Haynesさん(海外の著名なSEO専門家)の一言です。
私には、これがNotionやObsidianの代わりになる可能性があるように思えます。
— Marie Haynes(X投稿・2026年6月13日)
知識管理ツールの代表格であるNotionやObsidianを、”ただのMarkdownフォルダ”が置き換えるかもしれない——。これは大きな話なんですよね。

OKFの3つの設計思想——「預けない知識」の作り方
OKFが他の知識管理ツールと決定的に違うのは、「思想」です。仕様書を読むと、その違いがはっきり見えてきます。表で並べてみます。
| 観点 | 従来のツール(Notion等) | OKFの考え方 |
|---|---|---|
| 保存形式 | そのツール専用の形 | ただのMarkdownファイル |
| 必要な道具 | 専用アプリ・アカウント | メモ帳だけでOK |
| 5年後に読めるか | ツールが続いていれば | テキストだから永久に読める |
| AIに読ませる | ツール次第・難しいことが多い | 最初からAIが読み書きする前提 |
| 引っ越しコスト | 高い(崩れる・切れる) | ファイルをコピーするだけ |
| バージョン管理 | ツール内の履歴のみ | git(変更履歴)で管理可 |
ポイントは、OKFが「最小限のルールしか決めていない」ことです。仕様書には「スキーマレジストリを持たない」「未知のフィールドや壊れたリンクがあっても拒否しない、寛容な設計」と書かれています。
これ、すごく大事なんです。ガチガチにルールを決めると、現場が回らなくなる。「この欄を埋めないと保存できません」みたいな仕組みは、最初はキレイでも、忙しい現場ではすぐ放置されます。OKFは逆で、「とりあえず書いて。型が多少バラついてもOK」という”ゆるさ”を最初から許している。続けられる仕組みは、たいてい”ゆるい”んですよね。完璧を目指して止まってしまうより、ゆるくても走り続けるほうがいいんじゃないかな、と私は思っています。
型を厳格にして破綻するより、寛容な型で走り続ける。続けられる仕組みは、たいてい”ゆるい”。
「自分のデータを自分の手元に持つ」という思想は、実は私が以前書いたローカルAIが”声”を持つ日|クラウドに渡さず、自分のPCだけでAIキャラが喋り出すという記事とまったく同じ根っこから来ています。声も、知識も、大事なものは外のサービスに丸ごと預けない。手元に持っておく。これが2026年のAI時代の、静かだけど確実な備えだと私は思っています。

比較:OKF vs 私のmothership-lab
ここから少し、私自身の話をさせてください。冒頭で「これ、私がずっとやってるやつだ」と書いた、その中身です。
私は自分の仕事の土台として、「mothership-lab(母艦ラボ)」と呼んでいる仕組みを毎日動かしています。これは何かというと——まさにMarkdownファイルの集まりでできた、私専用のデジタル脳です。日々の気づきや会議の要点はひとつひとつ「カード」と呼ぶMarkdownファイルに残し、過去のLIVE配信や打ち合わせの発言は検索できるデータベースに蓄積する。そしてAIたちが、その知識を読んで仕事をし、新しい気づきを書き足していく。
お気づきでしょうか。これ、OKFが言っている「読む役と書く役の2種類のエージェント」そのものなんです。私はGoogleが名前を付ける前から、これを商売として回していました。
数字で言うと、私の母艦には会議の記録だけで約83万9千件分の会話、私自身の発言だけで約5万件近くが、検索できる形で蓄積されています。これを毎日、AIが読み込んで、記事を書いたり、判断のたたき台を作ったりしているんですよね。
| OKFが言っていること | 私が実際にやってきたこと |
|---|---|
| 知識はMarkdownファイルで持つ | カード(.md)で全部残している |
| 特定ツールに縛られない | Obsidianで見るが、中身はただのテキスト。いつでも移せる |
| AIが読んで活用する | AIがカードとDBを読んで記事・判断を生成 |
| AIが書き足して育てる | AIが新しい気づきをカード化して蓄積 |
| git(変更履歴)で管理できる | 母艦全体をgitでバージョン管理している |
| 壊れたリンクも許容する寛容設計 | 完璧に整理できてなくても、とにかく溜め続けている |
このあたりの「AIに仕事を任せられる仕組みをどう作るか」は、KarpathyのCLAUDE.md 4原則と、私がAIに持たせた「AI憲法7条」でも詳しく書きました。AIに渡す”ルールブック”もまた、Markdownのテキストファイルなんです。

完璧じゃなくていい——OKFの「寛容さ」が教えてくれること
OKFの仕様で、私が一番うなずいたのは「壊れたリンクを許容する」という一文でした。普通、システムを作る人は「壊れたリンクはエラーにすべき」と考えます。でもOKFは違った。「多少壊れててもいい。止めるな」と言っている。
なぜこれが刺さったか。私の母艦も、まったく完璧じゃないからです。正直に言うと、私のVault(知識の保管庫)は、毎日新しい情報が入ってくる一方で、それを整理しきれていません。「入ってくる速度」が「片付ける速度」を超えている。毎日新鮮な食材が届くのに、仕込みが追いつかなくて冷蔵庫がパンパン、みたいな状態です。
完璧に整理することより、止めずに溜め続けることのほうが大事。多少散らかっていても、テキストで残っていれば、後からAIが読んで整理してくれる。だから、まず溜める。型は最小限でいい。
これは私の働き方そのものでもあります。最強のAIに頼り切るのではなく、”仕組み”に残しておけば、たとえ使っているAIが変わっても仕事は回り続ける。この感覚は最強AI「Claude Fable 5」が消えても仕事が回り続けた話に詳しく書いた通りです。ツールは変わる。でもテキストで残した知識は残るんですよね。

非エンジニアの経営者が、今日から始められること
「OKFの思想は分かった。でも、うちは技術者じゃないし……」大丈夫です。OKFそのものを今すぐ導入する必要はありません。大事なのは”考え方”を会社の知識管理に取り入れることです。今日からできる、3つの小さな一歩をお伝えします。
ステップ1:大事な知識を「テキストファイル」に書き出す習慣をつける。まずは1つでいい。よく使う「お客様対応の基本方針」を、Notionやスプレッドシートではなく、ただのテキストファイル(.txt や .md)に書いてみる。メモ帳で開けるものは、5年後も読めます。
ステップ2:そのファイルをAIに読ませてみる。書き出したテキストをChatGPTやClaudeに貼り付けて、「この方針を踏まえて返信を書いて」とお願いしてみる。テキストで持っていれば、どんなAIにもすぐ渡せます。
ステップ3:ツールを”金庫”ではなく”作業台”として使う。NotionもGoogleドキュメントも便利です。使うのはOK。ただ「これがないと知識が取り出せない」という状態にしないこと。知識の”原本”は、自分の手元のテキストに置いておく。
ツールは”作業台”。知識の”原本”は、いつでも書き出せるテキストで、自分の手元に。これだけで、あなたの会社の知識は”ツールが消えても生き残る”状態に一歩近づきます。
ちなみに、「自分の経験や知識をどう資産にするか」というテーマは、売るより在り方|AI時代のマーケ初心者が見落とす”原液”の作り方でも掘り下げています。今日の記事は、その”原液”を「どの器に入れて保存するか」という続編だと思って読んでもらえると、繋がりが見えてくるはずです。

ひろくんのコラム——「Zoom一本」で全部回る理由
私がよく言うのが「Zoomさえしてれば、ほとんど全部のメディアに展開できる」という話です。これ、魔法でも何でもありません。タネは「一度話したことを、消えないテキストとして残している」ことにあります。
朝のLIVEで話す。その音声を文字に起こす。文字になった発言は、私の母艦の中で”原液”として保存される。そこからAIがブログ記事を書き、要約を作り、別の切り口の投稿を生む。一度の発話が、テキストになった瞬間に、何度でも使い回せる資産に変わるんです。
もし私が、話した内容を特定のツールの中だけに閉じ込めていたら、こうはいきません。テキストという”誰でも読める形”で残しているからこそ、AIが自由に料理できる。OKFのニュースを見て、私が「答え合わせだ」と感じたのは、まさにここでした。
よくある質問(FAQ)
- Q1. OKFを使うには、プログラミングの知識が必要ですか?
- OKFを本格的に運用するなら多少の技術知識はあったほうが楽です。ですが「知識をテキストで手元に持つ」という考え方は、プログラミング不要で今日から実践できます。メモ帳でテキストファイルを作れれば十分です。
- Q2. 今使っているNotionやスプレッドシートは、やめるべきですか?
- やめる必要はありません。便利なものは使い続けてOKです。大事なのは「そのツールがないと知識が取り出せない」状態を避けること。ツールは”作業台”、原本は”手元のテキスト”。この二段構えにしておけば安心です。
- Q3. OKFは流行りますか?様子を見たほうがいいですか?
- 正直、OKFという規格そのものが普及するかは、これからです(2026年6月時点で発表されたばかり)。ただ「知識をオープンなテキストで、AIが読める形で持つ」という流れ自体は、もう止まりません。規格の流行を待つより、考え方を今日取り入れるのがおすすめです。
- Q4. 中小企業でも意味がありますか?
- むしろ中小企業ほど効きます。専任の情報システム部門がなくても、テキストファイルなら社長一人でも始められる。「社長の頭の中」を消えないテキストにしておくだけで、引き継ぎもAI活用もぐっと楽になります。
まとめ:知識は、預けるな。手元のテキストで持て
長くなったので、最後にぎゅっとまとめます。GoogleのOKFが教えてくれたのは、シンプルな一つの真実です。
知識は、特定のツールに預けるな。誰でも読めるテキストで、自分の手元に持て。
冷蔵庫を何度買い替えても、”だし”のレシピが手元のメモに残っていれば、味は再現できる。ツールはいつか変わります。でもテキストで残した知識は、5年後も10年後も、あなたとあなたのAIが読める。
私はずっと、これを実際にやってきました。完璧じゃない。散らかってもいる。でも止めずに溜め続けてきた知識が、今、AIと一緒に働く土台になっているんだよね。だからこそ言いたいんです——知識を手元のテキストで持つ人は、これからのAI時代に強い。Googleが追いついてきた今が、始めどきだね。まずは大事な知識を1つ、テキストファイルに書き出すところから。あなたの会社の”だし”を、消えない場所に残しておきましょう。
参考リンク
- Marie Haynes氏のX投稿(OKF紹介・2026-06-13)
- Google Cloud公式ブログ:How the Open Knowledge Format can improve data sharing
- OKF 技術仕様書(GitHub・SPEC.md)
あわせて読みたい(関連記事)
田中啓之(ひろくん)/ GPTs研究会





